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障害年金・遺族年金を知ると、必要な生命保険の額は変わる

経済的自由

はじめに

封筒を開けたまま、しばらく手が止まった。 生命保険の証券。 毎月の保険料は、正直それほど重くはない。

けれど、この保障額をどう決めたのか——思い出せなかった。 根拠のないまま、払い続けている。 その違和感が、なかなか消えなかった。

必要な額は、不安では決まらない

保険の金額は、不安の大きさで決まるものではない。 決まるのは、引き算だ。

必要になるお金から、すでに入ってくるお金を引く。 その差が、保険で埋めるべき部分になる。

多くの人は、この「すでに入ってくるお金」を知らないまま契約しているのではないだろうか。

土台にある、障害年金と遺族年金

公的年金は、老後だけの制度ではない。 病気やけがで重い障害が残り、等級の認定を受ければ障害年金が出る。 亡くなれば、家族に遺族年金が支払われる。

・遺族基礎年金を受け取るのは、子のある配偶者か、子だ。ここでいう子は18歳年度末まで、または20歳未満で障害等級1級・2級の状態にある人。2026年度は年847,300円に子の加算がつき、1人目・2人目は各243,800円、3人目以降は各81,300円。子が2人なら月11万円台になる

・障害基礎年金2級も同じ年847,300円で、子の加算も同額がつく。子が2人なら、やはり月11万円台だ。1級は年1,059,125円

・厚生年金に加入していれば、遺族厚生年金(報酬比例部分のおよそ4分の3)や障害厚生年金3級(最低保障は年635,500円)が上乗せされる。障害厚生年金の1級・2級には、配偶者の加算243,800円もつく(3級にはつかない)

・遺族年金も障害年金も非課税だ。手取りの生活費と、そのまま引き算できる

何もない、ではないのだ。

ただし、土台の厚みは人によって違う

この土台は、誰にでも同じ厚さで敷かれているわけではない。

まず、働き方で違う。

・厚生年金に一度も加入したことがない人には、遺族厚生年金も障害厚生年金3級もない。子がいなければ、遺族基礎年金も出ない

・会社員を経てから独立した人は、保険料を納めた期間などを合わせて25年以上あれば、その実加入期間分の遺族厚生年金が出る。25年に届いていなければゼロだ。20歳からずっと納めていれば45歳で届く計算で、30代のうちは届かない。未納があれば、その分うしろにずれる

・ただし退職後でも、在職中に初診日がある病気やけがで5年以内に亡くなった場合は、加入期間を300月とみなす最低保障が働く

・遺族厚生年金には25年以上という長期要件があるが、障害厚生年金にはない。かわりに初診日に厚生年金へ加入していることが条件で、独立後に初診日があれば、過去に何年入っていても障害厚生年金はゼロ。障害基礎年金だけになり、2級に届かなければそこも出ない

・障害年金が支払われるのは、原則として初診日から1年6か月後の障害認定日(それ以前に症状が固定すればその日)を過ぎてからだ。会社員はその空白を傷病手当金(給与のおよそ3分の2、通算1年6か月)で埋められるが、国民健康保険にこの給付は原則ない。法人化して健康保険に入っていれば対象になりうる(報酬が出ている間は出ない)

・障害年金は「働けなくなればもらえる」ものではない。初診日や保険料の納付といった要件があり、等級の認定を受けて初めて支払われる。しかも多くは有期認定で、更新のたびに等級が見直され、減ることも止まることもある

・遺族年金の側にも、保険料の納付要件がある。未納が続いていると、子がいても出ないことがある

・国民年金には寡婦年金と死亡一時金もある。どちらか一方を選ぶ形だが、薄いが空ではない

次に、家族の形と性別で違う。

子のない夫が遺族厚生年金を受け取れるのは、妻の死亡当時に55歳以上だった場合に限られ、受け取り始めるのは60歳からだ。 子がいれば夫に遺族基礎年金、子に遺族厚生年金が出る。 けれど子のない共働き世帯では、夫側の土台はほとんど空になる。 子のない妻でも、30歳未満なら5年で終わる。

逆に、見落とされがちな上乗せもある。 夫の死亡時に40歳以上だった子のない妻には、65歳になるまで中高齢寡婦加算として年635,500円が加わる。 子がいた妻も、その子が18歳年度末を迎えて遺族基礎年金が止まるとき40歳以上なら、同じ加算に引き継がれる。 ただし35歳で死別した子のない人には、その後40歳になっても付かない。 そして在職中に亡くなった場合は別として、独立後に亡くなったときは、夫の厚生年金が20年以上ないと付かない。

最後に、これからの改正で変わる。

2028年4月から、子のいない60歳未満の配偶者の遺族厚生年金は原則5年の有期給付に変わる(妻は2028年度末に40歳未満の人から始まり、20年かけて60歳未満まで広がる)。 中高齢寡婦加算も、これから受け取る人から25年かけて段階的に縮んでいく。 すでに受け取っている人と、施行時に40歳以上の妻は、これまでどおりだ。

一方で、男性側は逆に厚くなる。 これまで受け取れなかった55歳未満の子のない夫も、施行後は60歳未満なら5年の給付対象に加わる。

5年間は加算がついて給付額はおよそ1.3倍になり、この5年の給付にかぎっては年収850万円未満という収入要件もなくなる。 5年を過ぎても、障害の状態にあるときや収入が十分でないときは受け取り続けられる。 あわせて、婚姻期間中の厚生年金記録を分け合い、遺された側が65歳から受け取る自分の老齢厚生年金に終身で上乗せする仕組み(死亡時分割)も始まる。 5年で終わる給付の、その先を支える設計だ。

土台が薄い人ほど、保険で埋める部分は大きくなる。

紙に書き出してみた

ねんきんネットで試算できるのは老齢年金だけで、遺族年金や障害年金の見込みは出てこない。

50歳以上のねんきん定期便なら、「老齢厚生年金」のうち報酬比例部分に0.75を掛けるとおおよそがつかめる(経過的加算部分は含めない)。 ただしその見込額は、60歳まで今の働き方を続ける前提だ。 早く辞めるつもりなら、実際はもっと小さい。

けれど50歳未満の定期便に載っているのは、これまでの加入実績に応じた額だ。 同じ計算をすると、実際よりずっと小さい数字が出る。 在職中に亡くなった場合は加入期間を300月とみなす最低保障が働くので、若い人ほどその差は大きい。

だから、正確な額は年金事務所で聞くのが早い。

私も一度、紙に書き出してみたことがある。 必要な生活費を並べ、そこから公的年金の見込みを引く。

たとえば子が2人いる家庭で、生活費が月25万円だとする。 国民年金だけの自営業なら、遺族基礎年金の月11万円台で止まり、残りは月14万円ほど。 会社員なら、同じ11万円台に遺族厚生年金が乗り、残りはさらに縮む。 同じ家族構成でも、穴の大きさはこれだけ違う。

不安は大きかったのに、穴は思ったほど大きくなかった。 ただしこれは、私の場合の話だ。 数字にして、はじめてそれが分かった。

保険は、穴を埋める道具

保険は安心を買う商品ではない。 足りない部分だけを、期間を区切って埋める道具だ。

・子が独立するまで、といった期限つきで考える

・貯蓄が育てば、必要な保障は自然に減っていく

生活防衛資金も、静かな土台になる。 私は1年分を確保している。 必要な厚みは働き方で変わるが、それがあるだけで保険に求めるものは小さくなった。

選択肢を持つということ

経済的自由とは、大金を持つことではないと思う。 自分の足元を知り、選択肢を持つこと。

知らないまま払い続ける不安と、知ったうえで選ぶ安心は、まるで違う。 安心の正体は、保険金額ではなかった。

まとめ

今日ひとつだけ、ねんきん定期便を開いてみてほしい。 50歳以上なら、老齢厚生年金の報酬比例部分に0.75。 50歳未満なら、その数字は目安にならないと知っておくだけでいい。 厚生年金に入っていないなら、その欄はそもそも空いている。 それも、大事な情報だ。

一般論ではなく、自分の数字で引き算する。 守りたいものは変わらない。 変わるのは、守り方の選び方だ。

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