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iDeCo加入可能年齢が70歳未満へ|50代から始める人の損益分岐点

経済的自由

はじめに

夜、電卓を叩いていた。 残り何年、いくら、どれだけ増えるか——。

数字を並べているうちに、手が止まった。 私が知りたかったのは金額ではなく、「間に合うのか」という一点だったのだ。

iDeCoの加入可能年齢が、70歳未満まで引き上げられる。 検討中の話ではない。法律はすでに成立していて、2026年12月1日から始まる。 50代の人にとっては、入口が広がる話だ。 けれど広がった入口の前で、多くの人が同じ問いに立ち止まるのではないだろうか。

「間に合わない」と思わせていたもの

50代からの積立は不利だ、とよく言われる。 理由はシンプルで、複利が効く時間が短いから。

でもこの言い方には、隠れた前提がある。 「積み立てられる期間は、どこかで打ち切られる」という前提だ。

今の制度は65歳未満まで。ただし「国民年金の被保険者であること」が条件で、60歳で退職して第2号でなくなれば、任意加入しない限りそこで途切れる。早く辞めるつもりの人ほど、実際に積める期間は短くなる。

12月1日から、その要件ごと外れて70歳未満までになる。働いていてもいなくても、拠出を続けられる。50代で始めても、積める期間は十年を超えうる。

ただし無条件ではない。老齢基礎年金やiDeCoの老齢給付金を受け取り始めると、そこで拠出は終わる。繰上げ受給を選べば、そのぶん早く終わる。逆に繰下げて待っているあいだは受け取っていない扱いなので、拠出は続く。老齢厚生年金だけなら加入できる。勤務先でマッチング拠出をしているなら、iDeCoとは併用できない。

打ち切りを前提にした不利さは、たしかに緩む。 ただし走行距離が若い人より短いことは、それでも変わらない。

損益分岐点は、掛金の外にある

iDeCoの魅力は運用益の非課税だけではない。 掛金が全額所得控除になる点が大きい。

一方で、コストと制約もある。

・引き出せる年齢は、60歳時点の通算加入者等期間で決まる。10年に満たないと受給開始は61〜65歳へずれる。勤務先の企業型DCにいた期間も通算されるので、iDeCoだけを55歳から始めた人は5年で、受給は63歳から

・口座管理手数料が毎月かかる

・受け取り時には課税の計算がある

つまり損益分岐点は、「増えたかどうか」ではなく「所得控除の効果と、資金を動かせない不自由さのどちらが重いか」で決まる。 運用リターンだけを見ていると、この軸を見落とす。

出口の順番で結果が変わる

入口が広がった一方で、出口の側は同じ時期の税制改正でむしろ狭くなった。退職金のある50代には、この二つが逆向きに効く。

見落とされやすいのが受け取り方だ。

一時金で受け取るなら退職所得として分離課税で計算される。 年金形式なら公的年金等の雑所得となり、他の所得と合算され、翌年の保険料算定にも入ってくる。

さらに退職手当等との重複調整がある。 確定拠出年金の一時金を先に受け取り、あとから退職手当等を受け取る場合、対象期間は「前年以前9年内」に延びた。 ただしこれが効くのは、退職手当等を令和8年1月1日以後に受け取り、かつ先に受け取った老齢一時金も令和8年1月1日以後に支払われたものである場合に限られる。 逆に退職手当等が先でDC一時金が後の順番は「前年以前19年内」で、従来どおりだ。

順番と時期で結論が変わる。 ここは一般論では決まらない領域だと思う。

私は制度で語れない側にいる

正直に書いておくと、私は雇用に紐づく制度の当事者ではない。 企業型DCも退職金も、自分の話として語れない。

語れるのは、もっと素朴な部分だ。 若い頃、株式投資で損を出して一度退場した。 その後も集中投資で大きな含み損を抱えた時期がある。 そこから学んだのは、増やし方より「続けられる形」だった。

暴落しても積立を止めない。 動かないと決めたら動かない。 その一貫性だけが、結果を運んできたのだ。

生活防衛資金は1年分。 物価上昇で購買力が目減りする感覚が気になって、最近その全額を個人向け国債(変動10年)へ移した。 額面は守られるし、金利が上がれば利率も追う。 ただ、物価に勝てるとは限らない——そこは正直に受け止めている。

もうひとつ、正直に書いておく。個人向け国債は発行から1年間は換金できず、換金するときも直前2回分の利子相当額が差し引かれる。生活防衛資金はもともと、すぐ動かすためのお金ではない。だからここに置いた。ただ、使う予定の決まっているお金は、たぶん別の場所がいい。

選択肢を持つ、という損得

制度の枠が広がるというのは、得をする話ではない。 「使うか使わないかを、自分で決められる年数が増える」という話だ。

50代から始める損益分岐点も、平均では出ない。 所得控除がいくら効くのか。 引き出せない期間をどう見るのか。 出口をいつ、どの順番で迎えるのか。

その三つを自分の数字で置いてみて初めて、線が引ける。

経済的自由とは、資産額そのものではないのかもしれない。 選択肢を持ち、選ばない自由まで含めて手元に置けること——それが自由の正体だったのだ。

まとめ

今日、紙を一枚だけ埋めてみてほしい。 自分がiDeCoの掛金を出したとき、所得控除がいくら効くのか。 退職金があるなら、受け取る年と順番も同じ紙に置く。入口と出口は、別々には決まらない。

その紙が埋まった瞬間、「間に合うか」という漠然とした不安は、扱える数字に変わる。 不安のままにしておかないこと。 始まりは、たぶんそれだけでいい。

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