はじめに
信託報酬0.05775%——その数字だけを見て、安心していた。
年に一度届く運用報告書は、開かずに閉じていた。 読んでも分からないだろう、と思っていたのだ。
けれど、実際に引かれているコストは信託報酬とは違う。 しかも、思っていたより差があった。
信託報酬は、コストの全部ではない
投資信託のコストには、信託報酬以外の費用がある。
・株式を売買するときの委託手数料
・売買のたびにかかる有価証券取引税
・海外の資産を預けておく保管費用
・監査費用や、その他の雑費
これらが差し引かれること自体は、目論見書にも書いてある。 書けないのは金額のほうだ。売買の状況で変わるため、あらかじめ料率も上限も示せない。
だから、実際に一年でいくら引かれたのかは、あとから運用報告書で確かめるしかない。
運用報告書のどこを見るか
見るのは「1万口当たりの費用明細」という表だ。 全体版でなくても、交付運用報告書のはじめのほうに載っている。
eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)の直近の期を、実際に開いてみる。
・信託報酬 0.058%
・売買委託手数料 0.003%
・有価証券取引税 0.011%
・その他費用 0.013%
・合計 0.085%
公称の信託報酬は年0.05775%(税込)。 明細では0.058%と丸めて出てくるが、同じものだ。 差は0.027%ポイント。 合計の0.085%は、信託報酬0.058%のおよそ1.5倍だった。
「総経費率」だけでは足りない
同じ報告書には「総経費率0.07%」という数字も、大きく載っている。
ただしこれは、原則として売買委託手数料と有価証券取引税を含まない。 全部込みの数字は、費用明細の合計のほうだ。
他のファンドで見るときは、対象期間も確かめたい。 1年に満たない期だと、合計の比率はそのままでは年率にならない。項目の立て方もファンドによって少し違う。
差の正体は、新興国にあった
同じ報告書の後半、マザーファンドごとの明細を見ると、差の出どころが分かる(決算期はファンド本体と少しずれる)。
・外国株式(先進国) 合計0.022%
・新興国株式 合計0.145%(うち保管費用0.098%)
見えない費用のほとんどは、新興国の株式を現地で保管しておくための費用だった。 世界中に分散するということは、預け先の数だけ費用がかかるということでもある。
差を見て、慌てなくていい
差を知ると、つい「損した」と感じてしまう。
でも保管費用や取引税は、世界中の株を持つ代償でもある。 まったくゼロにはならない。
大事なのは、差の大きさそのものより、その差が年ごとに極端に膨らんでいないかだ。 ひとつ前の期の合計は0.094%で、今回は0.085%。 下がったのは保管費用(0.018%→0.011%)と有価証券取引税(0.013%→0.011%)だ。売買委託手数料はどちらの期も0.003%で、動いていない。
なぜ下がったのかまでは、報告書には書かれていない。 分かるのは、膨らんではいないという一点だけだ。
私は若い頃、数字を確かめずに株を買い、損失を出して一度退場した。 その後もJ-REITに集中していて、コロナショックで大きな含み損を抱えた。 何に、いくら払っているのか——見ていなかったのだ。
数字を知ることは、選択肢を持つこと
実質コストを確認しても、たいていは乗り換える必要などない。
それでも見る意味はある。 知らないまま持っているのと、知って持ち続けるのは、同じ保有ではないからだ。
暴落が来たとき、私はルールどおり何もしない。 積立も止めない。 その静けさを支えているのは、自分の商品を自分の言葉で説明できるという感覚だった。
経済的自由とは、お金が増えることではないのかもしれない。 自分の判断の理由を、自分が持っている状態——それが選択肢を持つということではないだろうか。
まとめ
今日ひとつだけ、やってみてほしい。
自分の積み立てているファンドの運用報告書を開いて、「1万口当たりの費用明細」の合計を見る。 総経費率ではなく、合計のほうだ。 それだけでいい。
数字が思ったより大きくても、小さくても、たぶん何かが変わる。 知っている、という一点で。

