はじめに
枠が増える、というニュースを見た。
最初に浮かんだのは「よかった」ではなく、「使うかどうかは別だ」だった。
上限が上がることと、自分が増やすことは、同じ話ではない。
——そこを混ぜないだけで、判断はずいぶん軽くなる。
制度は、たしかに広がる
2026年12月1日、iDeCoの拠出限度額が変わる。
企業年金のない会社員は月2.3万円から6.2万円へ。
ただしこの6.2万円は企業年金等の掛金と合算する共通枠で、別枠ではない。
自営業などの第1号は月6.8万円から7.5万円へ(国民年金基金・付加保険料との合算枠)。
掛金への反映は2027年1月の引落分からだ。
加入できる年齢も70歳未満へ広がる。
ただし原則どおり65歳から老齢基礎年金を受け取れば、拠出はそこで終わる。
70歳近くまで積めるのは、繰下げて待つ場合の話なのだ。
増えたのは枠であって、余裕ではない
枠が広がると、埋めたくなる。
節税額の試算を見れば、なおさらだ。
けれど掛金は、原則60歳まで引き出せない。
しかも60歳から受け取れるのは、通算加入者等期間が10年以上ある場合。
この期間は企業型DCの加入者期間なども合わせて数える。
足りなければ受給開始は後ろへずれる。55歳から始めたなら63歳だ。
節税は毎年効く。流動性は、そのぶん静かに減っていく。
動かせるお金を、手放せなかった
私は生活防衛資金を1年分持っている。
最近、その全額を個人向け国債(変動10年)へ移した。
理由は物価だった。額面が減らなくても、同じ金額で買えるものは減っていく。
ただ、国債が物価に勝てるとは限らない。守られるのは額面と、金利が上がれば利率も追う点まで。
しかも発行から1年は中途換金できず、換金時には直前2回分の利子相当額が差し引かれる。
私の備えはこれ一本だ。だから動かしにくさを軽く見られない。
若い頃、投資で損を出して一度退場した。コロナショックのときはJ-REITに集中していて、大きな含み損を抱えた。
あのとき効いたのは利回りではなく、売らずに済む余白だった。
上限を追わない、という選び方
限度額は、国が用意した器の大きさにすぎない。
埋めるかどうかは、自分の現金と、これからの十数年の予定で決まる。
枠が増えた年に掛金を据え置く。それも立派な運用判断ではないだろうか。
経済的自由とは、税を最大限に削ることではない。
必要なときに動ける自分でいること——つまり選択肢を持ち続けることだ。
制度は器を広げてくれる。器に合わせて暮らしを縮めるのは、順番が逆かもしれない。
まとめ
今日ひとつだけ。
掛金を増やす前に、60歳より前に使う予定のお金を書き出してみてほしい。
そこに何も書けないなら、枠は埋めていい。
書けてしまったなら——その金額が、増やさない理由になる。

