はじめに
上限が上がる——そのニュースを見て、最初に浮かんだのは「いくら入れられるか」ではなかった。
「いくら手元に残しておくか」だった。
2026年12月、iDeCoの拠出限度額が変わる。 枠が広がることは、埋めなければいけないという意味ではないのだ。
何が、どう変わるのか
改正の中身そのものは、そう複雑ではない。
・企業年金のない会社員は、月2.3万円から6.2万円へ
・企業年金のある人は、企業型DCの事業主掛金やDBなど他制度の掛金相当額を、6.2万円から引いた残りへ
・自営業などの第1号被保険者は、月6.8万円から7.5万円へ(国民年金基金や付加保険料と合わせた枠)
施行は2026年12月1日。 ただし掛金に反映されるのは、2027年1月の引落分からだ。 掛金は全額が所得控除の対象になるから、節税の面だけを見れば魅力は確実に大きくなる。
枠が広がると、判断は難しくなる
選べる幅が増えるほど、迷いも増える。
月2.3万円までだった頃は、上限まで入れるか入れないかの二択に近かった。 6.2万円になると、その途中のどこかを自分で決めることになる。
そしてiDeCoの掛金は、原則60歳まで引き出せない。 節税は今、受け取りはずっと先。 この時間差こそが、設計の要ではないだろうか。
出口の話を、先にしておく
2026年1月から、iDeCoの一時金を先に受け取り、あとから退職金を受け取る場合の調整期間が、5年から10年に延びた。
iDeCoを先に受け取っておけば控除を二重に使える——その組み方は、以前より通りにくくなった。 逆に、退職金を先に、iDeCoをあとにする順番は、もともと調整期間がずっと長い。
入口の節税だけで額を決めると、出口で思ったほど残らないことがある。 枠は増えても、税制が緩くなったわけではないのだ。
私が先に決めていること
私は生活防衛資金を1年分持っている。 最近、それを個人向け国債(変動10年)へ移した。
額面が減らなくても、同じ金額で買えるものは静かに減っていく——それが気になったからだ。
もっとも、これで物価に勝てるわけではない。 額面が守られて、金利が上がれば利率も追ってくる——それだけのことだ。
若い頃、株で損を出して一度退場した。 コロナショックのときはJ-REITに集中していて、大きな含み損を抱えた。
そこから学んだのは、金額の大きさより「動かずにいられる配分かどうか」だった。
掛金は、暮らしの可動域から決める
だから順番は逆でいいと思っている。 上限から引き算するのではなく、暮らしから足し算する。
・1年分の生活費を、別に確保できているか
・60歳まで触れなくても困らない額はいくらか
・下落が続いても、止めずに出し続けられる額はいくらか
この3つを満たす金額が、その人の掛金だ。 残りは、いつでも動かせる場所に置いておけばいい。
経済的自由は、枠の大きさではない
経済的自由とは、口座の残高ではなく選択肢を持っていることだと思っている。
60歳まで引き出せないお金を増やしすぎると、その手前の選択肢は静かに減る。 かといって優遇を使わなければ、手取りはそのぶん削られる。
どちらが正しいという話ではない。 その境目を、他人の平均ではなく自分の数字で決める。 今回の改正が問うているのは、そこかもしれない。
まとめ
制度は勝手に広がる。 けれど、広がった枠をどう使うかまでは決めてくれない。
今日ひとつだけ、「60歳まで触らなくても平気な月額」を紙に書き出してみてほしい。
その一行が、来年の掛金設計の土台になるはずだ。

