はじめに
財布から出ていく一万円は、どれも同じ顔をしている。
でも、あとで効いてくるお金と、いま決めないと効かなくなるお金がある。 そのことに気づいたのは、年金の繰下げの仕組みを読んでいたときだった。
遅らせるほど増えるお金
老齢年金の繰下げは、増額率が「0.7%×65歳に達した月から繰下げ申出月の前月までの月数」で決まる。 最大84%。 そして日本年金機構の説明では、この増額は生涯続く。
受け取りを遅らせるほど、一回あたりが厚くなる。 長く生きるほど効いてくる形だ。
逆向きもある。 繰上げは減額率が月0.4%(昭和37年4月1日以前生まれは0.5%)で、減額も生涯続く。 しかも繰上げ請求をした後、その請求を取り消すことはできない。
取り消せない、という一行が重かった。
早く決めないと効かないお金
一方で、遅らせると痩せていくものもある。
国民年金の付加保険料は月400円。 付加年金は年額200円×納めた月数で、2年以上受け取れば納めた額を上回る。 ただし納付は申し出をした月分からで、それ以前にさかのぼることはできない。
増えるかどうかは、決めた時期で決まってしまうのだ。 前納も同じ性格を持つ。 令和8年度の2年前納は口座振替で417,150円、毎月納めた場合との差は17,370円だった。
先に置くから安くなる。あとからでは取り返せない。
二つの時計が逆を向いている
遅らせるほど効くお金と、早く決めないと効かないお金。 同じ財布から出ていくのに、時間の向きが逆なのだ。
ただし繰下げにも条件はある。 待機中は加給年金額や振替加算を受け取れず、それらは増額の対象にもならない。 基礎と厚生を別々に繰り下げることもできる。
どちらが得かは、制度の表だけでは決まらない。 決まるのは、自分がいつ、何に使うつもりかのほうだった。
順番を決めることが、選択肢になる
私は暴落でも積立を止めないと決めている。 決めてあると、その場の気分に判断を渡さずに済む。
支出も同じかもしれない。 遅らせて厚くする枠と、いま払って確定させる枠。 この二つを先に分けておくだけで、迷いはずいぶん減る。
経済的自由とは、たぶん金額の話ではない。 順番を自分で決められること——それが選択肢を持つということではないだろうか。
まとめ
何歳まで生きるかは選べない。 選べるのは、順番のほうだけだった。
今日ひとつだけ。 いま迷っている支出が、遅らせて効く側なのか、早く決めないと効かない側なのか——そこだけ見分けてみてほしい。

