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資産額を誰にも話さないという選択|増えたことを共有できない居心地

経済的自由

はじめに

口座の残高を見て、少し息を吐いた。 数字が、思っていたところまで来ていた。

それを誰かに言いたくなって——言わなかった。 夕食の席では、いつものように子どもの話が流れていく。 静かだった。 悪い静かさではなかったけれど、居心地はよくなかった。

増えたことは、なぜ話しにくいのか

減った話は笑いに変えられる。 増えた話は、そうならない。

自慢に聞こえないか。 相手を測っていると思われないか。 言葉を選んでいるうちに、言う理由のほうが消えていく。

お金の額は、その人の生き方の点数みたいに扱われることがある。 だから額を出した瞬間、話は数字の大小に移ってしまう。 共有したかったのは、大小ではなかったのに。

話したかったのは、数字ではなかった

言いたかったのは「増えた」ではなく「怖くなくなってきた」だったのかもしれない。

市場が下がった日に、眠れた。 積立を止めずにいられた。 報告したかったのはそっちの変化で、額はその副産物にすぎなかった。

でも安心は、数字の形では届かない。 伝える言葉を持っていないから、口座の数字を代わりに差し出したくなる。 そして差し出せないまま、黙るのだ。

黙っていていいものと、伝えておくべきもの

ただし、全部を胸にしまっておけばいい話ではない。

額は言わなくていい。 でも「どこに何があるか」は別だ。 使っている証券会社、生活防衛資金を置いている器、まとめたメモの在り処。 家族が困るのは、金額を知らないことではなく、ありかを知らないことではないだろうか。

制度の側は、家族の話になった時点で金額に触れてくる。 贈与税の暦年課税は、もらった人ごとに、その年の1月1日から12月31日までに贈与で受けた財産を合計し、そこから基礎控除額110万円を差し引いて計算する。 相続税のほうは「3,000万円+600万円×法定相続人の数」が基礎控除になる。 自分の家がその線のどちら側かは、足してみるまで分からない。

私も実家の資産をざっと足してみたことがある。 超えていなかった。 だが、計算するまで分からなかった。 それが分かっただけで、黙っていることが少し楽になった。

話さないことも、選択肢のかたち

話さないのは、閉じることではない。

額を明かさないままでも、選べることは静かに増えていく。 働き方を変えられる余地、待てる時間、断れる仕事。 経済的自由とは、誰かに認めてもらった量ではなく、自分で選択肢を持っている状態なのだ。

その選択肢は、人に見せて初めて価値が出るものではない。 だから静かでいい。 ただし、ありかだけは開けておく。

まとめ

金額は、言わなくていい。 言えない居心地の悪さも、たぶん完全には消えない。

今日ひとつだけ、「どこに何があるか」を一枚のメモに書き出してみてほしい。 そして家族には、そのメモの場所だけを伝えておく。 額を語らなくても、渡せるものはある。

静けさは、隠しごとではなかった。

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