はじめに
「開業届って、出したほうがいいのかな」——。
知人にそう聞かれて、うまく答えられなかった。 投資の話なら少しはできる。 でも、お金が入ってくる側の仕組みを、私はほとんど知らなかったのだ。
増やす話ばかりしていた
資産形成というと、どうしても運用の話になりがちだ。 利回り、手数料、分散——。
けれど、増やす手前の段階で、毎年こぼれていくものがある。 税金だ。
信託報酬の0.0何%を気にする人が、所得にかかる税には無頓着なことがある。 私も、そのひとりだった。 入口を整える前に、出口が細っていたのかもしれない。
開業届は、扉の鍵のようなもの
開業届は、正式には「個人事業の開業・廃業等届出書」という。 事業を始めてから1か月以内に税務署へ出す、たった1枚の紙だ。
出したからといって、その日から何かが変わるわけではない。 ただ、これがないと青色申告は選べない。 損得の前に、選択できるかどうかが決まる書類だった。
青色申告のいくつかの効き目
青色申告は、別に「所得税の青色申告承認申請書」を出して始まる。 期限は原則その年の3月15日まで。 1月16日以降に始めた場合は、開業日から2か月以内。 ここを逃すと、その年は白色のままだ。
主な効果はこのあたり。
・複式簿記と電子申告などの要件を満たせば最大65万円の特別控除(紙で提出なら55万円、簡易簿記なら10万円)
・赤字を3年間くり越せる
・一定の要件のもとで、家族へ払う給与を経費にできる
控除は所得からそのまま差し引かれる。 現金は手元から出ていかないのに、課税される額だけが小さくなるのだ。
事業所得か、雑所得か
ただし、副業のすべてが青色申告の対象になるわけではない。
事業所得と認められるかどうかは、帳簿を付けて保存しているか、継続して営利目的で行われているかなどから個別に判断される。 帳簿がなければ、原則として雑所得として扱われる。
雑所得には特別控除も赤字の繰越もない。 節税の話に見えて、実は記録の話なのかもしれない。
手取りが変わると、積む力が変わる
税を軽くしても、暮らしが一日で変わるわけではない。 けれど、残った分をそのまま積立に回せば、そこから時間が働き始める。
私は収入の一部を淡々と積み続けた時期がある。 暴落が来ても、ルールどおり何もしないと決めていた。 若い頃の投資で退場した経験が、動くほど傷が深くなると教えてくれたからだ。
その「何もしない」を支えるのは、入金を止めない力だった。 そして入金の余力は、増やす側だけでなく、残す側からもつくれる。
経済的自由とは、資産額そのものではないのだと思う。 働き方も休み方も自分で決められる、その余白のこと。 選択肢を持つというのは、派手な運用よりも、こぼしていた税を拾う地味さから始まるのではないだろうか。
まとめ
今日ひとつだけ。 昨年、自分がいくら税金を納めたのか——その数字を確かめてみてほしい。
知らないままだったのは金額ではなく、選べたはずの選択肢のほうかもしれない。

