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海外移住とFIRE|税・年金・健康保険で見落としやすい論点

経済的自由

はじめに

物価の安い国で暮らせば、資産は長持ちする——。 その計算をしていた夜があった。 生活費を半分にできれば、必要な資産も半分になる。 電卓の上では、たしかにそうだった。 そう思った瞬間、頭から抜け落ちていたものがある。 税金と、年金と、健康保険。 それから、証券口座だった。

移住は「支出の話」ではなかった

海外移住を考えるとき、多くの人は生活費から入る。 家賃、食費、為替。 けれど動くのはお金だけではない。 住民票を抜いた瞬間、日本の制度の外側に出るのだ。

たとえば住民税。この税金は「その年の1月1日に国内に住所があるか」で決まる。年の途中で出国しても、その年度分の額は変わらない。1年以上の移住として認められるなら、12月に出国すれば翌年度分はかからない。年が明けてから出国すれば、前年の所得への課税が1年分残る。出国日がひとつずれるだけで、結果が変わる。

ただし、見られるのは形式ではなく実態だ。ワーキングホリデーのように滞在が「居住」ではなく「旅行」とみなされる出国は、住民票を抜いていても課税される。「安くなる」と「関係なくなる」は、別の話なのだ。

未納分を残したまま出国するなら、納税管理人を決めて市区町村に届け出る。国内に不動産収入などが残って確定申告が必要なら、税務署への届出はそれとは別だ。

もうひとつ、大きな資産を持って出る人には国外転出時課税がある。対象は、株式や投資信託などを1億円以上持ち、出国前10年のうち5年超を国内で暮らしていた人。売っていなくても、含み益に課税される。

数えるのは有価証券などで、預金や自宅は含まれない。ただし、NISA口座の中身は対象に入る。納税管理人の届出と担保を条件に、納税を猶予する道もある。いずれにせよ、出てから知ってよい制度ではない。

年金は止まるのではなく、空く

仕事を辞めて海外に住むと、国民年金の加入義務はなくなる。やめてもいい。ただしその期間は、受給資格の期間には数えられるが、年金額には反映されない。未納とは違う。けれど老後の受取額は、静かに削れていく。

続けたければ、任意加入という道がある。日本国籍で20歳以上65歳未満、厚生年金に入っていないことが条件だ。ここで効いてくるのが、申し出た月からしか加入できず、遡れないという仕組みだ。出国してから考えると、考えていた期間の空白がそのまま確定する。

障害の保障は、もっとはっきりしている。障害基礎年金の要件は、初診日が「国民年金の加入期間中」「20歳前」「日本国内に住む60歳以上65歳未満の未加入期間」のどれかにあること。海外に住んで任意加入していない期間は、このどれにも当たらない。任意加入していれば、加入期間中として道が残る。海外では、保障は自動でついてくるものではなく、選んで残すものになる。

NISAは、持って出られない

見落としの中で、いちばん大きいのはここかもしれない。非居住者になると、NISA口座は原則としてそこで終わる。口座は廃止され、中身は課税口座に払い出される。

「最長5年維持できる」という特例はあるが、対象は勤め先の転勤命令など、やむを得ない事由での出国に限られる。生活費を下げるために自ら選んだ移住は、入らない。特例が使えたとしても、できるのは持ち続けることだけで、新しく買うことはできない。そもそも、この特例を扱っていない金融機関もある。積立は、そこで止まる。

証券口座そのものの扱いも、会社ごとに違う。特定口座は廃止されて一般口座への払い出しになり、保有を続けるには出国前の手続きや、国内に代理人を立てることを求める会社もある。持ち続けられる商品の範囲も一律ではない。ここは一般論では答えが出ないので、出国前に自分の証券会社に確かめるしかない。

救いはひとつある。iDeCoは、国民年金に任意加入していれば、海外からでも掛金を出し続けられる。任意加入しなければ、出国前までに積んだ分を運用するだけになる。年金の任意加入が、iDeCoを続ける入口も兼ねているのだ。

健康保険は、住民票と一緒に消える

海外転出届を出せば、国民健康保険の資格は失われる。海外療養費も、日本の公的医療保険に入っている人のための制度だ。抜けた側は使えない。

見落としやすいのは、一時帰国だ。生活の本拠が海外にある人が短期で帰ってきても、国保には入れない。滞在中に病院にかかれば、全額自己負担になる。

住民票を戻して加入し、すぐ再出国する——そんなやり方は、遡って資格を取り消されることがある。給付された分の返還を求められることもある。一方で、本帰国は速い。帰国から14日以内に転入届を出せば、転入した日から資格が戻る。

外れている間の医療は、現地の制度か民間保険で埋めることになる。現地の民間医療保険は年齢と持病で保険料が大きく変わり、年齢によっては加入を断られることもある。埋め合わせの費用は、若いうちの見積もりのままではいてくれない。

削れるのは、支出だけではなかった

生活費を下げるために移住する——その発想だと、見落としが増える。 外れる制度と、止まる積立と、埋めるための費用。 そこまで数えて、はじめて比較になる。 それでも行くと決めるなら、その判断は強い。

経済的自由とは、支出を下げることではないのかもしれない。 どこに住むかを、恐れずに決められること。 選択肢を持つとは、外れる制度の中身まで知ったうえで選ぶことではないだろうか。

まとめ

今日ひとつだけ。 移住先の家賃相場を調べる前に、証券会社に聞いてみてほしい。 「非居住者になったら、この口座はどうなりますか」と。 その答えから、本当の計算が始まる。

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