はじめに
画面の中の数字を、何度もスクロールした。 売りたいわけじゃない。 ただ、「一度売ったら枠が消える」という思い込みが、静かに手を止めていた。
若い頃、株式投資で損を出して一度退場した。 あの記憶があるせいか、動かすことそのものが怖かったのだ。
枠は消えるのではなく、戻ってくる
新NISAでは、保有商品を売却すると、その分の非課税枠が翌年以降に復活する。 復活するのは時価ではなく、簿価——つまり取得価額の分だ。
ただし、買い直すにはその年の年間投資枠を使う。 売った瞬間に自由に買い戻せるわけではない。
ここを誤解すると、判断が歪む。 戻るけれど、すぐには戻らない。 その時間差こそが、制度の性格なのだ。
「使い切る」から「回す」へ
かつての私は、枠を消耗品のように見ていた。 減らしたくない。だから触らない。 そうやって固まっていた。
でも実際は、循環する器に近い。
・売れば簿価分の枠が翌年空く
・空いた枠は年間の投資枠の範囲で再び使える
・急な現金化も、永久の損失にはならない
この三つを知っただけで、肩の力が抜けた。
判断の軸は、制度ではなく生活
とはいえ、頻繁に売買するための仕組みではない。 枠が戻るからといって、相場の上下で売り買いを繰り返せば、長期の複利は削れていく。
私は市場が急落しても、ルール通りに何もしない。 コロナショックのとき、当時集中していたJ-REITで大きな含み損を抱えた。 あの経験から、分散へ移り、積立を止めない姿勢に落ち着いた。
売却を考えるのは、相場ではなく生活が理由のときだけ。 医療費、住まいの変化、働き方の見直し。 そういう場面で、枠が戻るという事実は静かな支えになる。
戻る枠は、選択肢そのもの
非課税枠が復活すると知ってから、資産が少し柔らかく見えるようになった。 必要なときに使える。使っても、また積み直せる。
経済的自由とは、増やし続けることではないのかもしれない。 崩しても回復できる設計を持つこと。 選択肢を持つとは、たぶんそういうことだ。
減らない資産より、戻せる資産のほうが心強いのではないだろうか。
まとめ
今日ひとつだけ、確かめてみてほしい。 自分が売れないのは、制度の制約か、それとも不安のせいか。
答えが後者なら、少しだけ呼吸が楽になるはずだ。 枠は、戻る。

