はじめに
子どもの名義で口座を作るかどうか——その画面の前で、手が止まった。
作れば残せる。作らなければ渡さない。 そんな単純な二択に見えていた。
だが、止まっていたのは手続きではなかった。 何のために渡すのかを、決めていなかったのだ。
二択に見えているものの正体
「残す」と「自立させる」。 この二つを並べると、どちらかを選ばないといけない気がしてくる。
けれど実際に迷っているのは、額の大小ではないのではないだろうか。 渡したあと、その子がどう扱うか——見えないのはそこだ。
金額は決められる。 決められないのは、渡す理由のほうだった。
制度は器であって、答えではない
2027年開始のこどもNISAは、すでに成立した制度だ。 対象は0〜17歳、年間投資枠60万円、非課税保有限度額600万円。 買えるのはつみたて投資枠の対象商品で、定時・定額の買付に限られる。
注意したいのは、この600万円が成人の非課税保有限度額1,800万円の内数だということ。 別枠ではない。 18歳までに600万円を埋めれば、その子は残り1,200万円から始めることになる。
もっとも、それが実際にコストになるのは、その子が将来1,800万円を自力で埋めきる場合に限られる。 そこまで行かなければ、理論上の話にとどまる。
払出しにも制限がある。 その年の3月31日において12歳以上である年——中学校に上がる暦年以降なら、入学金や授業料など教育費・生活費に使う旨の書類を添えて払い出せる。 それ以前は、住まいが災害で全壊したなど税務署長の確認を受けた場合に限られ、しかも口座内の全てを払い出すときだけだ。
器の形は、調べれば分かる。 分からないのは、その器に何を入れたいのかのほう。
名義と、お金の出どころ
子ども名義の口座に親の資金を入れることは、贈与にあたる。 贈与税の基礎控除は、受贈者ひとりにつき年110万円。 こどもNISAの年間投資枠60万円はその内側に収まるが、他の贈与と合算して数える。
名義と、資金の出どころと、実際に管理する人。 この三つが揃っていないとき、税務上どう扱われるかは一概には言えない。
だからこそ、先に整理しておくことがある。 ——誰のお金として渡すのか。 それが決まっていなければ、口座は親の財布の別の引き出しでしかない。
渡すのは金額ではなく、決め方
児童手当は0歳から18歳到達後最初の3月31日まで。 月額は3歳未満15,000円、3歳以上高校生年代まで10,000円。 これをそのまま積むかどうかも、家庭ごとの判断だ。
満額にすることが最善とは限らない。 軸は速さではなく、埋めるかどうか。
私が本当に渡したいのは、残高ではないのかもしれない。 迷ったときにどう決めるか——その手順のほうだ。 数字は調べれば出てくる。 出てこないのは、なぜ渡すのかという一行だった。
経済的自由とは、金額の到達ではなく、選択肢を持っていることだと思う。 子に渡したいのも、たぶんそれと同じもの。 多く持っている状態ではなく、自分で選べる状態のほうだ。
まとめ
「残す」か「自立させる」かの境界線は、額のどこかに引かれているわけではなかった。 線は、渡す理由の側にある。
制度は器で、答えではない。 器の形を先に調べても、入れるものが決まらなければ手は止まったままだ。
今日ひとつだけ——渡したい理由を、一行だけ書いてみてほしい。 金額はそのあとでいい。

