はじめに
運用報告書を開いて、数字を目で追っていた。 信託報酬、売買委託手数料、有価証券取引税、保管費用——並んだ項目のどこにも、外国で引かれた税は出てこない。
ファンドの中では、見えないところで税が引かれ、条件が合えばその一部が調整されている。 そういう仕組みがあると知ったのは、ずっとあとだった。
二重課税は、静かに起きている
海外の株式が配当を出すと、まずその国で税が引かれる。 残った分が日本に届き、そこにまた日本の税がかかる。
同じ配当に、二度。 これを緩めるために置かれているのが、外国税額控除という仕組みだった。
制度は二段構えになっている
整理すると、こうなる。
・外国株や外国ETFを直接持つ場合は、外国税額控除。確定申告が必要
・国内の公募投資信託やETFの分配金は、源泉徴収の段階で自動的に調整される。手続きは不要
・分配金が出ない場合は、そもそも調整の出番がない
2020年1月1日以後に支払われる分配金からは、外国で引かれた分に相当する額が、日本の所得税からあらかじめ差し引かれて計算される。 これが二重課税調整措置だ。 こちらでやることは、何もない。 何もしなくても効いている——ここが、この仕組みの静かなところだ。
名前が紛らわしいものがある。 「分配時調整外国税相当額控除」は、その分配金をあえて確定申告するときに使う控除の名前だ。 明細書を添えて申告する前提の制度で、自動で効いているほうとは別物だ。
対象になるのは、外国の資産に投資して、そこから生じた利益をもとに分配金を出しているファンド。 外国で税が引かれていなければ、調整するものがない。 分配金のうち、元本の払い戻しにあたる部分も、そもそも課税されないので対象から外れる。
効いても、全部が戻るわけではない
調整されるのは、所得税のぶんだけだった。 住民税の5%に、この制度の適用はない。 なお住民税は、外国所得税を足し戻したあとの額にかかる。
取り返せる範囲が、国税までにとどまる。 戻らないまま残るのは、外国で引かれた税のうち、住民税に相当する部分だ。
「調整される」と聞くと、まるごと戻るように思ってしまう。 効いている仕組みの内側に、静かに残っているものもある。
分配金がなければ、何も起きない
読み進めて、手が止まった。
この調整は、分配金にかかる日本の所得税から差し引く形で働く。 つまり分配金を出さない設計のファンドでは、調整する対象がない。 ファンドの中で引かれた外国税は、基準価額に効いたまま残るのだ。
分配金を出さずに再投資へ回す設計は、それ自体は合理的だと思っている。 ただ、この一点だけを見れば、取り戻す道はない。 得か損かではなく、そういう構造なのだと受け取った。
NISAでは、引く相手がいない
もうひとつ気づいたことがある。
NISA口座では、分配金そのものが非課税だ。 差し引くべき日本の所得税がないので、この調整も働かない。
課税口座なら効くものが、非課税口座では効かない。 ねじれのように見えるが、非課税であることの裏返しでもある。 だからこの話は、特定口座の前提か、NISAの前提かを分けないと比べられない。 一般論のまま持ち帰ると、たいてい向きを間違えるのではないだろうか。
見えないコストと、選択肢
外国税は、信託報酬のように費用明細へ並ぶものではない。 比較サイトの表にも出てこない。 数字にならないものが、静かにリターンを削っている。
とはいえ、それを知っても私の積立は変わらなかった。 全世界株式インデックスを軸に、下がっても止めない。ルールは同じだ。 変わったのは、「知らないまま任せている」から「知って任せている」へ移ったことだけ。
これは私の場合の話にすぎない。 だからこそ、一般論ではなく自分の口座と自分の商品で確かめるしかないのだと思う。
経済的自由とは、資産額の話だと思っていた。 けれど本当に欲しかったのは、仕組みを理解したうえで選択肢を持っている状態だったのかもしれない。
まとめ
今日ひとつだけ。 自分の持っているファンドが分配金を出す設計かどうか、目論見書で確かめてみてほしい。
そこで出ないと分かれば、この調整は最初から自分に関係がない。出るなら、次は特定口座かNISAかを見ればいい。 知らないうちに効いている仕組みもある。 効かない仕組みも、同じように静かだ。

