はじめに
残高の桁が、見慣れないものに変わっていた。 うれしさより先に、落ち着かなさが来た。 このお金は、いまどこに置いてあるんだろう——。 増やし方は調べてきたのに、置き場所のことはほとんど考えていなかったのだ。
増えるほど、器の違いが表に出る
少額のうちは、どこに置いても大差はない。 けれど額が増えると、器ごとの決まりが効いてくる。 守られる範囲。動かせるまでの時間。 増やす話の陰で、置く話はいつも後回しになる。 整理と言っても、口座を減らすことではないのかもしれない。 どの器が、どんなときに何をしてくれるのか。それを知るだけでいい。
守られ方は、器で違っていた
預金保険では、当座預金や利息の付かない普通預金等は全額が保護される。 一方、定期預金や利息の付く普通預金等は、預金者一人あたり一金融機関ごとに合算され、元本1,000万円までと破綻日までの利息等まで。 それを超えた分は、破綻した金融機関の残余財産の状況に応じて支払われる。つまり、一部は支払われない可能性がある。 証券口座は仕組みが別だ。 金融商品取引業者には、自己の固有財産と顧客から預かった資産を分けて管理する義務がある。万が一破綻しても、分別管理された資産は返ってくる。 何らかの事故などで返還できないときに、投資者保護基金が一人当たり1,000万円を限度に補償する。 同じ「預けている」でも、前提がこれだけ違っていたのだ。
動かせるまでの時間も、器が決める
私は生活防衛資金の一年分を、全額、個人向け国債(変動10年)に置いている。 額面が減らなくても、同じ金額で買えるものは減っていく。それが気になって移した。 最低金利は年0.05%が保証される。ただ、物価に勝てるとは限らない。 弱点もある。発行後一年は中途換金ができない。 換金するときは、直前2回分の各利子(税引前)のおよそ8割が差し引かれる。 備えなのに、すぐには動かせない——それを承知で置いている。 災害救助法の適用対象となる大規模な自然災害で被害を受けた場合などには、一年を待たずに換金できる特例はある。
置き場所は、選べる幅を決めている
経済的自由という言葉を、長いあいだ「増やした先にあるもの」だと思っていた。 でも、置き場所を把握していることも、そのひとつではないだろうか。 どこがいくらまで守られ、どれがいつ動かせるのか。 それが分かっていれば、市場が荒れた日に慌てて全部を売る理由は減る。 選択肢を持つとは、商品を増やすことではなく、器の性質を知っていることなのかもしれない。
まとめ
増えるほど、置き場所の違いが効いてくる。 守られ方と、動かせるまでの時間。整理の軸は、この二つで足りる。 今日ひとつだけ、自分の口座を紙に並べて、どれがどの仕組みで守られるのかを確かめてみてほしい。 安心の正体は、残高ではなく、たぶんその地図のほうにある。

