はじめに
深夜の検索履歴に「入院費用 平均」と残っていた。
数ヶ月前のことだ。 体調を崩したわけではない。 ただ、ふと想像してしまったのだ。
もし長期間働けなくなったら——。 資産形成の計画は一瞬で崩れるのではないか。
その夜から、公的な医療保障を一つずつ調べ始めた。 調べるほどに気づいたのは「知らなかった自分の危うさ」だった。
高額療養費制度という安全網
医療費の自己負担には上限がある。 これが高額療養費制度の核心だ。
ひと月の医療費が一定額を超えると、超過分が払い戻される。 自己負担の上限額は所得によって区分が異なる。
たとえば年収約370万〜770万円の区分なら、ひと月の上限はおよそ8万円台だ。 100万円の医療費がかかっても、窓口での最終的な負担は約9万円前後で済む。
私はこの仕組みを、恥ずかしながら長い間きちんと理解していなかった。 「3割負担」という言葉だけが頭にあり、大病=破産という漠然とした恐怖を抱えていた。
事前に「限度額適用認定証」を取得しておけば、窓口での支払い自体を上限額に抑えられる。 入院が決まってから慌てるのではなく、制度の存在を知っておくことが最初の備えになる。
傷病手当金が支える「働けない期間」
病気やけがで働けなくなったとき、もう一つの支えがある。 傷病手当金だ。
健康保険の被保険者が連続3日以上休業した場合、4日目から最長1年6ヶ月にわたって支給される。 金額はおおむね給与の3分の2。
収入がゼロになる恐怖は大きい。 だが制度上、一定期間は収入の一部が補填される仕組みが用意されている。
注意すべき点もある。
・国民健康保険には原則として傷病手当金がない
・退職後に受け取るには、退職日までに1年以上の被保険者期間が必要
・退職日に出勤すると、退職後の継続給付を受けられなくなる
FIRE前のタイミングで辞めるなら、この要件を満たしているかどうかは確認しておきたい。
民間保険を「引き算」で見直す
公的保障の全体像が見えると、民間保険の見え方が変わる。
高額療養費制度で医療費の上限は抑えられる。 傷病手当金で収入の一部は守られる。 生活防衛資金で数ヶ月の生活費はまかなえる。
この三つを重ねたとき、果たして毎月の保険料は本当に必要な額だろうか。
私は以前、不安を埋めるために保険を積み重ねていた。 制度を知らなかったから、保険で「全部カバーしなければ」と思い込んでいたのだ。
公的保障を土台にして、足りない部分だけを民間保険で補う。 この引き算の発想に切り替えたとき、月々の固定費が軽くなった。
制度を知ることで広がる選択肢
FIREを目指す過程で意識するのは、資産の増やし方ばかりではない。 守り方——つまり、想定外の出費にどう備えるかも同じくらい重要だ。
公的保障は完璧ではない。 しかし「何もない」わけでもない。
制度を知ったうえで生活防衛資金を整え、過剰な保険を手放す。 その積み重ねが、経済的自由への道を確かなものにしてくれる。
不安の正体は、知らないことだった。 知ることで消える不安があると気づいたとき、選択肢を持つという言葉が初めて実感に変わった。
まとめ
今日ひとつだけ、自分の健康保険証の裏面を見てほしい。
保険者番号と所得区分がわかれば、高額療養費の自己負担上限は調べられる。 それだけで「もしものとき」の輪郭が少し見えてくる。
備えは、知ることから始まるのだ。

