はじめに
夜、FIREの記事を読みふけっていた。 画面に並ぶ言葉を追ううち、ふと引っかかった。
その多くが、会社員を前提にしていた。 厚生年金がある。退職金がある。社会保険の半分を会社が負担してくれる。
個人事業主やフリーランスには、そのどれもない。 同じ「経済的な自立」を目指しているのに、足元の地面がまるで違うのだ。
会社員には見えにくい「後ろ盾」の正体
会社員がFIREを語るとき、意識しにくい構造がある。
・厚生年金による上乗せ年金
・健康保険料の会社負担(約半分)
・雇用保険・労災保険の存在
・退職金制度(企業型DC含む)
これらは給与明細の裏側で静かに積み上がっている。 辞めるまで実感しにくい。 だからこそ「4%ルールで取り崩せば大丈夫」という計算が成り立ちやすい。
一方フリーランスは、この後ろ盾がすべて自前になる。 同じ資産額でも、必要な備えの厚みがまったく異なるのだ。
収入の波という見えないリスク
会社員の収入は毎月ほぼ一定である。 フリーランスはそうではない。
ある月は潤い、翌月はゼロに近い。 この波があるだけで、資産形成の難易度は跳ね上がる。
積立投資を続けたくても、収入が途絶えれば生活費が先になる。 「毎月一定額を淡々と積み立てる」——その前提自体が揺らぐ。
ここで効いてくるのが、淡々と続ける力だ。 だが収入そのものが止まるなら、「淡々と」の前提が崩れる。
「今月は積み立てない」という判断もまた、戦略の一部なのかもしれない。 止めるべき時を見極めることが、波のある働き方では生命線になる。
フリーランスが自分で築くセーフティネット
会社が用意してくれないなら、自分で設計するしかない。 フリーランスが使える制度は限られているが、確かに存在する。
・国民年金基金やiDeCoでの上乗せ
・小規模企業共済による擬似退職金
・新NISA(つみたて投資枠)での長期運用
・生活防衛資金の厚めの確保
特に生活防衛資金は会社員より多く持つ必要がある。 収入が止まるリスクが常にあるからだ。
私自身、生活防衛資金は1年分を一つの目安にしている。 これは贅沢ではなく、何があっても暮らしを止めないための最低限の備えだ。 波のある働き方なら、その厚みはもっと要るのかもしれない。
FIRE達成の「数字」が変わる理由
会社員が年間生活費の25倍を目標にするのは有名な考え方である。 だがフリーランスの場合、この数字では足りないかもしれない。
理由は明確だ。
・国民健康保険料は全額自己負担
・国民年金は厚生年金より受給額が少ない
・傷病時の所得補償がない
つまり「年間支出」そのものが会社員より大きくなりやすい。 さらに将来受け取れる公的年金も少ない。 取り崩し期間も長く見積もる必要がある。
FIRE後の支出構造を正確に把握しなければ、計算上は達成しても現実には足りない——という事態が起こりうる。
まとめ
フリーランスがFIREを目指すとき、会社員と同じ地図は使えない。 後ろ盾がない分、自分で仕組みを設計する必要がある。
それは不利に見えるかもしれない。 だが自分の手で備えを積み上げてきた人間は、何が自分を支えているかを正確に知っている。
それこそが経済的自由の土台ではないだろうか。 選択肢を持つとは、制度に守られることではなく、自分の構造を理解していることなのだ。
今日ひとつだけ、自分のセーフティネットに何が足りないかを書き出してみてほしい。

